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UTMB 2010 レポート

Wednesday, 10月 6, 2010

 

ウルトラトレイル・ツールド・モンブラン(UTMB)2010を振り返って

鏑木 毅

 

UTMBが始まった。私は、スタートの3日前に現地入りした。多くのトップ選手が1週間以上前から現地入りするのに比べ、あまりに直前の現地入りといえる。

これは考えがあってのこと。このレースのスタートは午後6時30分。すぐに夜となり、翌朝まで徹夜のランとなる。このことを考えると、むしろ時差ぼけのまま走った方がこのナイトセクションでは優位に働く。あまり眠気を感じずに走ることができるのだ。

UTMBに向け、ほぼ1年がかりで作り上げて来た体は、現地入りしても、1日1日と軽くなってゆくのが実感できた。本当に最高の調子だったのだが・・・。

 

スタート後、31km地点のコンタミンヌで、レース中止の情報を聞かされた。

最初はコース中にがけ崩れがあったとの説明だったが、おそらく厳しい気象条件を考慮しての判断だったと思う。

20数時間のはずのレースは、たった3時間で終了してしまった。

一瞬、気が遠くなるような失望感が体全体を襲い、この日のためにしっかりと鋼鉄のように固めてきた強固な心がもろもろと崩れてゆくのが手に取るようにわかった。

その後にすぐに、苦しかった1年間のトレーニングの1シーン、1シーンが頭を巡り自然に涙が頬を伝ってくる。後は自分の感情を全く抑えることができなかった。

 

自分の本当の力を証明できなかった悔しさが一番大きいのだが、次いで、ポラール心拍計の本格的な分析によるトレーニングプログラムの成果を証明できずに終わってしまったことも大きなショックだった。

しかし、僅か166kmの行程中の30kmではあるが、手応えはあった。

スタート時に重かった体が、時間の経過とともに軽くなってゆき、さあこれからペースアップというところで終わってしまった。足の接地感覚、冷静な思考感覚、呼吸の具合などなど、私の長いレース経験からしても、かなり良いものだったのだが・・。

 

前回も書かせて頂いたが、今回は過去3回のUTMBへの準備とかなり違ったプログラムを取り入れてきた。それは、長時間の低心拍トレーニングのウエイトを極端に増やしたことである。このプログラムのある程度の成果は5月のエンデュランス北京100kの優勝で証明されたと思う。このレースに向けては、全くと言うほど、ゾーン4/5(最大心拍数の80~90%/90%~100%)でのトレーニングを入れずに臨んだが、結果として優勝。レースの準備としては、敢えてバランスを欠いた形で走り、勝てたことはこのプログラムの有効性をある程度確信できる良い機会となった。6月中旬から、少しずつ、最終段階のトレーニングとしてゾーン4/5(最大心拍数の80~90%/90%~100%)でのトレーニングを加えた。このトレーニングは今までのゾーン2(最大心拍数の60~70%)でのトレーニングで培われたスタミナを更に高いレベルで発揮できるようにするためのもので、最後の仕上げの期間と言える。このトレーニングを実施する際に考慮したのは、できる限りレースが行われているコースを走ること。そうすることで、レースの優勝者とのタイム的な比較ができるので、より正確な体調の把握が可能となる。

 

一例として、6月末に「北丹沢12時間山岳耐久レース」のコースで実施したトレーニングデータを下記に紹介したいと思う。

 

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経過時間は4時間52分。例年の優勝者のタイムが4時間30分前後であることを考えると結果として、かなり速いペースで走ったと言える。個人差があるが、私にとっては150拍/分とかなり高い心拍数を記録している。

ポイントは、この時の走感覚と翌日の疲労度。このトレーニングのポイントは、決して全力を出してはいけないということ。160kmのレース感覚からかけ離れたものとならないよう、ある程度余裕を感じながら走り終えなければならない。

 

「楽に走ったが、タイムは良かった。」

 

この感覚がつかめたということは、これまでのゾーン2(最大心拍数の60~70%)でのトレーニングが成功した証拠だと思う。また翌日の疲労度にも気を配って欲しい。いくら速いタイムで走れても、翌日全く走れないような疲労感が残ってしまうようでは、ロングレースには対応できない。この感覚は練習時につかめた時に初めて、レースでの好成績を確信できるのである。

 

今回、本当に多くの日本人のトレイルランナーの方々が、この地に訪れてくれた。本当にありがたいことだと思う。初めて参戦した2007年に、私の走る姿を見た、多くの観客から「ジャポネ?」と尋ねられ、驚かれたことを考えれば信じられないことだと思う。

レース期間中、シャモニの街で、日本人の参加者の方から「鏑木さんが情熱を傾けてきたレースを走りたくって、そして一緒に走りたくって、ここまで来ました。」という言葉を頂いた。本当に嬉しい一言だった。

これまで私も含めた多くの選手、メディアの方々、その他このレースに関わった様々な方々の熱いメッセージが、多くの日本人の方々に届いたのだと思う。

来年は2年越しのUTMB。今年よりもさらに大きな期待とプレッシャーの中で走ることになるのかもしれない。考えると正直恐ろしくなる。しかし、人間は追い込まれる程に強くなる。自分にはできる。今回の失望感を絶対に無駄にはしない。「楽しむ勇気」。今こそ、この言葉の本当の意味を知ることになるだろう。